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第三話「1−Aへようこそ」


「・・・・。」
心地よい風にちょっと不相応な話声が聞こえる。
簡単に言えば、この学校の御偉い人のありがたいリピートのかかった話なだけだが。
この学校のイベントは外が晴れである限り外で行なうという校風はまったくもって素晴らしいと思う。
しかし、こんなくだらない話を聞くがための物であるのなら願い下げである。
さらに、言えばもう寝ちゃうぞ!! って感じなのである。
こんな、いい春風が吹き日差しも心地よい日に話だけ聞いて突っ立っていろと言うのは到底無理である。
前にアスナは頭を時折上下させながら、意識をかろうじて保っているといった感じだ。
横にいる木乃香といえば、何やら落ち着かない顔でマイクを持っている先生を見つめている。
ちょっと気になった私は声を掛けてみることにする、もちろん小声で。
「ねえ、木乃香。 今話している先生って知り合いなの?」
肘でちょいちょいと突つきながら木乃香に聞いてみると。
ちょっと考える素振りをして
「まあ、次を楽しみに聞いててや♪」
などと、悪戯っぽく微笑んで返してきた。
次? えーとつまりさっきの先生は関係無かったということかな?
しばし、考えているとありがたい説教地味た話が終り、本命の学園長先生となった。
内心、あの人にさらに輪をかけたような長話で無いことを祈った。
すると、教壇に独特な服を着た大層なご老人が上がってきた。
ついでに頭はひょろ長くなんか、漫画の中の仙人みたいな感じだ。
コホンと、咳払いをしてその学園長先生が口をひらく。
「えー、わしがこの学校の学園長を勤める「近衛 右衛門」じゃ。」
へー、年寄りにしては若若しい喋り方をしていて、なにか頭に引っかかる言葉を聞いた感じがした。
もう一度さっきの言葉を思い返すと・・・
「あっ、木乃香と同じ名字だ。」
思い出したように口にした私の顔を見た木乃香は嬉しそうに。
「そうやー、学園長は私のおじいちゃんなんやー。」
と、事も無げに言ってくる。
私はそれを聞いてちょいと固まった。
それに気がついたのか、前のアスナが私を説得するように
「その話本当よ、私学園長と会ったことあるもん。 木乃香つてに。」
真実よ。
と、いきなり告げられちょっと驚きもしたが。
まあ、学園長の娘であれ私の友人であることには間違い無いのだから。
とりわけギャーギャー言うことでもないと思った。
そう考えていると横にいる木乃香が心配そうにつぶやいた。
「あはー、やっぱひいちゃったかなー。」
寂しそうにつぶやく彼女をみてすぐに声を掛ける。
「ううん、まあちょっとは驚いたけど私は木乃香の友達だからあんまり関係無いよ。」
彼女の耳元でボソっと言うと。
彼女は嬉しそうな顔になり一言「ありがとな。」といって入学式は幕を閉じた。

入学式が終了して、各教室へ移動している時、前にいたアスナがだるそうに肩を下げながら今日の入学式のことについてぼやいていて
私と木乃香がなんとかアスナに気合を入れようと四苦八苦して話している時ふとアスナがバッと即座に構える。
「わわっ、どうしたのアスナ!?」
「ど、どうしたん?」
流石に180度いきなりテンションを変えられ驚く私達を尻目にアスナは目の前をじっと見ていた。
私達もそれに気づき、前に目をやるとそこには綺麗なブロンドの髪をした上品そうな女性が立っていた。
制服を着ているところと、この廊下にいる所を見ると、多分私達と同じ学年なのだろう。
しかし、自分やアスナや木乃香と比べると随分大人っぽい。
「えーと、ダブり?」
自分の心に偽り無く率直にその女性を見ながら答えると。
その女性に聞こえてしまったのか、私を物凄い形相で睨みながら近づいてくる。
「あちゃー、海里素直なのも程ほどになー。」
後ろから頑張れーと声援つきの木乃香の声が聞こえる。
えーと、つまり木乃香は逃げちゃった?
わ、私はどうすれば!?
私の目の前には、怒りに満ちた女性がズンズンと言わんばかりに近づいてきている。
ここでさっきのは冗談、などと言う言葉で済みそうになさそうだ。
ふいに、視界が遮られる。
目の前にアスナが立っていた。
「・・・くく、あははは。 よかったわねー、あやか、ダブりに見えるらしいわよあんた。 まあ、仕方ないわよね。 化粧濃ゆいし。」
どうやらアスナは目の前の素晴らしい闘気の持ち主と知り合いらしい。
ついでに、良い感じに女性の怒りの炎に油を注ぐ言葉を発する。
「なな、なんですっってーーーー!!!」
予想通りの大噴火、女性は顔を真っ赤にして怒る。
発見お嬢様に見えた女性はそのまま漫画でしか聞いたことの無いお嬢言葉を使っている。
世の中は広いもんだなーと感心していると。
「ふん、あなただって。 背は低いし、お猿だし、なにより女性にとってあるまじき馬鹿力の持ち主じゃありませんこと?」
おほほほと言いながらアスナのことを馬鹿にする。
さっきのセリフは特に「馬鹿力」を強調して喋っていたような気がする。
「なんですってー!!」
あっさりアスナも大噴火して、今にも掴みかかろうとする。
流石の私もそれはまずいと思い、止めにかかろうとした時、不意に渋い男性の声が響く。
「女の子同志の取っ組み合いなんて、見れたものじゃないよ。」
私の後方からその声は出ていて、振りかえると20代後半と言った所の教員らしき人物が歩いてきていた。
その声が聞こえたのか、二人は一度強く睨みあったあとプイッと顔をそむけ女性の方は私に向き直り
「私の名前は雪広 あやか!! あなたと同じクラスの一人ですわ。 二度目はないですわよ。」
耳の鼓膜がやぶれんばかりの音量を私に叩きつけ1−Aへとさって行った。
「あちゃー、同じクラスだったのかー。」
私は頭を抑えつつ自分の失敗に気がついた。
「あはは、アスナ君もあやか君もかわらないねー。」
その男性はアスナの前を通り越して私の前に立つ。
「初めまして、僕は君のクラスを受け持つことになった高畑・T・タカミチって言うんだよろしく。」
そう言うと手を差し出してきた、握手と言う奴だろう。
私は普通に手を握り返し挨拶をする。
「あ、どうも私生野 海里といいます。 えと、アスナとは知り合いなんですか?」
挨拶ついでにさっきの会話で引っかかった部分を聞いてみる。
すると高畑先生はちょっと苦笑いをしながら
「まあ、僕は広域指導員ってのやっててね。 その昔からあの二人はああなんだ。」
先生までもこんな風に言うとはアスナと雪広さんおそるべし。
すると、後方で待避していた木乃香がやってきて。
「高畑先生、私近衛 木乃香です。 これからよろしゅーお願いします。」
木乃香は頭を下げた。
「ああ、君が学園長の。」
高畑先生もなっとくした素振りをみせ、アスナの方向に向き。
「さあ、アスナ君。 僕より先に教室に向かわないと遅刻になっちゃうよ。 もちろん、生野君や近衛君も。」
にっこり、笑いながら高畑先生が言う。
とたん、私と木乃香の体がいきなり中を舞う。
いや、よく見るとアスナが私と木乃香の腕を掴んで信じられない速度で走っている。
「わわっ、ど、どうしたのアスナ!?」
アスナは顔を真っ赤にさせ全力疾走をして答えてくれない。
木乃香は笑いながらアスナの顔を見つめている。
私が慌てていると後ろに遠ざかった高幡先生が
「1−Aへようこそ。」
といっているのが聞こえた。
私は高畑先生の言葉を心に留め、1−Aへと引っ張られていった。

別談
「ねえ、アスナどうしちゃったの?」
教室についても顔を真っ赤にさせているので気になり木乃香に聞いて見ると。
「えっとなー。」
言って良いのやらと、小難しい顔をして言いにくそうにしていると不意に後ろから。
「生野さんその子「おじ様」が趣味らしいですわよ。」
なんか聞き覚えのある声と共におほほほという笑い声も聞こえた。
「あー、なるほど。」
私が手をポンと鳴らした瞬間。
「あんたなんかショタコンのくせにーーー!!」
アスナが激怒して雪広さんに飛びかかる。
「「あちゃー。」」
私と木乃香は声を揃えてその場の感想とした。


第三話「1−Aへようこそ」完